コロナ禍になり、巷でよく「ワーケーション」という言葉を聞くようになった。

ワーケーションとは、「ワーク」(労働)と「バケーション」(休暇)とを組み合わせた造語で、観光地やリゾート地で休暇を取りながらもテレワークを行うことで、創造性や生産性を高めつつ、一方で地方にとっては関係人口や利用客を増やせるという狙いが……という硬い説明はさておき。

未だコロナ禍から抜け出す気配を見せない今日、SARUYAの様子を覗いてみると、以前よりは少ないながらも宿泊客が出入りしている。ささやかなバケーションをとりにきたと思われる日本在住の外国人、近県の旅行を楽しむ若者達に混ざって、パブリックエリアで仕事をする人たちの姿が目立つ。長く滞在しているのか手慣れた様子で、キッチンでコーヒーを沸かしながら、zoomなどに勤しんでいる。彼らは主に都内の会社に勤めるビジネスマン。勤め先がテレワークになったことを利用して、SARUYAに滞在しながら仕事もしつつ、富士吉田での滞在を楽しんでいるらしい。

SARUYAでは、2020年10月頃から、株式会社ロフトワークと連携してワーケーションを推進する取り組みを開催している。『SHIGOTABI』と名付けられたそのプロジェクトでは、「旅するように働こう」をコンセプトに他にはないちょっとこだわり強めのメニューをいくつも用意した。
2020年は、地域と縁のあるアーティストによるワークショップや、D&DEPARTMENTによる地元の食と織物を結びつけるトークセッションなど。2021年は、富士山の登山道を歩くツアーや、未来の街づくりを考えるオンラインイベント。(https://shigotabi.com)加えて、継続的におこなっている「SHIGOTABIラジオ」では、毎月ゲストを迎えて「働く」と「旅」の関係を語り合っている。(https://open.spotify.com/show/2qhulggjiC9UFrQ4y8YxI4

その甲斐あって、ロフトワークの社員を含めた多くの長期利用者が来るようになったのだ。これこそまさしくワーケーションが実践されている姿、というわけだが、ではSARUYAおよび富士吉田でおこなうワーケーションには一体どんな効能があるのだろう?

自分自身のことを振り返ってみると、もともとの旅好きに加え、仕事柄地方に出かけることも多いので、必然的に旅先で仕事をすることがよくある。時には波音が聞こえるホテルのテラスで、時には日本庭園を望む邸宅で。出張先の近くにできたオシャレと評判の図書館を利用したり、他所の会社のオフィスの片隅をお借りしたりしたことも。

とにかくいろんな場所で仕事をしてみた経験から実感したことは、明らかに旅先での仕事はいつもよりはかどる。そして発想力や集中力が高まる。一般的にワーケーションの利点とされる“創造性や効率性の向上“は、おそらく正しい。

それと同時に、ワーケーションをより効果的にする「条件」のようなものもわかってきた。

「都会」と「自然」の二元論は実はちょっと違う

一般的に、都会の雑踏で慌ただしく暮らす人がよりリラックスして仕事ができる場所に行くなら、静かで自然豊かなところこそ相応しいだろうと思いがちだけど、実際にはそうでもない。現実問題としてwi-fiや電源が確保できないこともあるし、圧倒的な自然を前にすると、なんだかその雄大なリズムと仕事の思考が合わなくて、せっかくこんなところに来たなら仕事よりも徹底的に休むほうがこの場では正しい過ごし方な気もしてくる。

それよりむしろ、人々が行き交う適度な雑音や、見慣れた風景の中に新しいものを発見するちょっとした刺激のような、耳や目に入ってくる “ざわめき“があったほうが、仕事への集中力をもたらしてくれることがある。

雑音や刺激があって設備が整っているというなら、ほらやっぱり都会がいいじゃない、という声が聞こえてきそうだけど、それもまた違う。

一般的に東京のような都市を語るとき、「刺激的」という表現はよく使われる。でも現実には、都市は刺激が多すぎるのだ。新しいビジネス、新しいテクノロジー、行き交う無数の人々の表情、最新の流行からこれからきそうな流行まで、一部の隙間も許さないくらい情報が溢れている。そこから日々刺激を受けて、そのたびにあれこれ思考を巡らせていたら、多くの人の神経は疲れてしまう。だから人は長く都市で過ごしていると、情報をやり過ごし、何事もなく過ごそうとするクセがついてしまう。つまり、自分で耳や目を閉じて(むしろ物理的にイヤホンやスマホで閉ざして)、刺激を受け取らないように防御するのだ。

富士吉田は“日常を少しだけズラした場所“

富士吉田の街をぷらぷらと歩いていると、ワクワクする家並みや昔ながらの商店がある。迷子になるのを覚悟で細い路地を進んでいくと、古い看板を発見したり、用水路に出くわしたり。そこにはたしかな人々の生活感があって、ご近所同士のコニュニケーションも伝わってくる。お腹が空いたらオカモチをもったラーメン屋さんが配達もしてくれる。(Uber Eatsなんて必要ない。)

商店街を中心とするアナログな暮らしというのは、ただ古いとは限らなくて、実はものすごく合理的で本質的だったりするものだ。「そうか。東京も昔はこうだったのかもしれない」「自分だったらこの街でどんな商売をするだろうか」などと想像力を働かせながら、写真を撮ったりあちこち見回したりしていたら、いつの間にか次の仕事のアイディアが生まれてくる。

もちろんそこに暮らす人にとっては“日常“。でも、都会で暮らす人にとっては“非日常“。それも思考停止してしまうほどの圧倒的な異世界ではなく、どこか懐かしく、日常を少しだけズラしたところにある世界。そんなちょうどいい混濁具合が、都会では情報が多すぎて閉ざしてしまっていた五感や思考のアンテナを開放し、創造力を呼び起こすのかもしれない。

SARUYAは非日常の入り口

宿というのはなかなか不思議な存在で、地域に密着したビジネスでありながら、遠く離れた場所からお客様を呼んでくることもできる。この街になんの縁がない人も、とりあえず予約サイトをポチっとやれば、少なくともここで1泊2日を堂々と過ごす権利を得られるのだから、宿というものが果たす役割はいかに大きいかと思う。

SARUYAは、そんな非日常への入口として、これからも新たな『SHIGOTABI』プロジェクトを用意する予定だ。働き方を少し変えたい、いつもの景色を少し変えたい、心地よいざわめきを味わいたいなら、ぜひ。

告知:SARUYA HOSTELでは、9月からワーケーションしたいという方の為の特別プロモーションを行います。詳細は以下URLをご覧ください。