富士吉田が本格的な寒さを迎える少し前、SARUYA に新しいブランケットがやってきた。数ヶ月前Watanabe Textileさんに制作を依頼していたものが完成したのだ。

思わずくるまって眠りたくなるようなふかふかとした質感としっとりとした重さが心地よく、ホワイト、ネイビー 、マスタードの色が目にも暖かい。これらは今後SARUYAの各客室に設置されるので宿泊の際にはぜひ実際に体感してほしい。

素材はキュプラとラムウールの2重織。縦糸に使用したキュプラは綿の種(コットンシード)の羽毛部分から生成された糸で、肌触りが良く静電気が起きにくいことなどから主にスーツの裏地などに使われる。私のような素人の目にはシルクと間違えるような繊細な光沢がある。

横糸に使用したラムウールとは生後6〜7ヶ月のメリノ種の仔羊から刈り取られる羊毛のこと。一般的なウールに比べてしなやかで軽く保温性に優れている。Watanabe Textileのデザイナー兼職人の渡邊竜康さん(以下いつもの呼び方でタツヤスさん)によると、このラムウールとの出会いがブランケットの全容を決めたらしい。

当初のSARUYAからの依頼はベッドスローだったが、寒さに備えてなにか暖かいものを…と素材を探していたときにこの糸と出会い、その質の良さが気に入ったこととSARUYAに合うのではないかと直感的に感じたことからブランケットに路線転換したという経緯だ。

私が知る限りタツヤスさんはいつも西湖とか富士北麓の森にいる。織機の前で仕事もしながら、時には商談会や打合せもこなしながら一体いつ寝てるんだ?というのは誰もが言ってることだけど、どんなに忙しくとも自然の中で過ごす時間を削ることはないらしい。

自然は作為がない。誰も手をかけず、台風のあとだろうと雨のあとだろうとあるがままに放置されているのに、それがおかしいとも汚いとも感じないし違和感がない。逆に自然のほうもこちらがどんなに機嫌が悪くてもモヤモヤしていても拒絶することはない。すべて受け入れる、受け入れてもらえる心地よさは自分の中から雑音を消して本質的に大切にすべきものに集中するために必要不可欠な時間なのだ。

この作業は無意識のうちにタツヤスさんのテキスタイルづくりの指針になっている。自然のなかに身を置いた時のような心地よい感覚と材料となる糸や色を照らし合わせ、感覚が一致したときに「こんなものがつくりたい」と思うのだという。意図的にナチュラルなものをつくろうとしているのではなく、自身の感覚に合うものを選んでいったら結果的に自然に馴染むものができる…。そんなところがタツヤスさんのテキスタイルに、物理的に暖かい、軽い、色が綺麗とかいうだけでなく、すっと心の奥まで入り込んでくるような存在を主張しすぎない心地よさを感じる所以かもしれない。

「その存在が邪魔にならない」とはSARUYAが目指すものでもある。強すぎる主張や過度なもてなしは、宿としての差別化にはなるかもしれないが必ずしも心地よいとは限らない。宿とは、寝る、食べる、休むといった機能のほかに、その土地や街を味わうアシストをする場所でもある。人それぞれがもつ旅の本質に集中してもらうために、雑音となるもの(過度なデザイン、違和感、不快感、もちろん余計な音そのものも)をなるべく排除することはSARUYAが常に心がけていることだ。

すべてを実現できているかは別として。共通点をもつSARUYAとタツヤスさんの織りあげたブランケットは、間違いなくこの冬、部屋に馴染んでいくだろう。