山梨県の名物といえば何を思い浮かべるだろう?
ワイン? 桃? それとも富士山?
実は山梨県最大の名産品は「水」である。
全国に流通するミネラルウォーターの約40%、特に東日本で販売されるミネラルウォーターはほぼ100%が山梨県産だ。SARUYAのある富士吉田市も県内にいくつかある採水地の代表的なひとつで、コンビニやスーパーのペットボトルをあらためて見てみると、「採水地:富士吉田市」の文字を見つけることができるだろう。
富士吉田市では各家庭に送られる水道水もこの名水だ。つまり全国に誇るミネラルウォーターを蛇口をひねるだけで飲むことができる。世界を見渡せばそもそも水道水がそのまま飲めるだけでも貴重なのに、さらにそれが日本随一の名水とはなんと贅沢なことか。ちなみに富士吉田のお土産には水道水をそのままゼリーにした「富士山水ゼリー」なんてものも売られている。
富士吉田市に供給される水は富士山に降り注いだ雨がはじまりになっている。標高が高く空気がきれいな場所なのでこの時点で汚染がない。さらに地中に染み込んだ水は火山岩の地層を通り25〜40年かけて濾過される。その間に火山岩から適度にミネラル成分が溶け出し、美味しい条件を満たす水になるのだ。
一般的に人が美味しいと感じる水の条件は残留蒸発物や残留塩素などいくつかの基準があるが、富士吉田の水はそのすべての基準を満たしている。硬度は平均88mg/lの軟水で、日本人が好む飲みやすくクセがない水でありながら適度な甘みと飲み応えが特徴となっている。
SARUYAに滞在の際にはぜひ躊躇なく水道水を直接飲んでほしいし、お茶や和食にも向いているので壁に並ぶ緑茶やハーブティもあれこれ試してほしい。
富士山が育む豊かで綺麗な水は飲み水以外にも様々な方面に活用されている。富士吉田市で織物産業が盛んになったのも、富士山の硬度の低い水が発色の良い染物をつくるのに適していたことが理由のひとつだし、川や湖がつくり出す景観は観光に活かされ、淡水魚の養殖は山梨グルメに進化した。
豊かできれいな水を目でも確認したければ、SARUYAから出てほんの50mも歩けば宮川が流れ、家々の細い路地にも水路が網の目のように張り巡らされている。ローカルな街の穏やかな光景だと思って近づくと意外なほどたっぷりとした水が轟轟と流れていてそのギャップに驚く。もしかするとこのパワフルな水の流れこそがこの街に富士山のエネルギーとか気の巡りとかいうものを満たしてくれているのか、などと思いながら宮川沿いを当て所なく歩いてみると、富士吉田の新しい景色も見えてくる。
その時はぜひ水道水をボトルに詰めて持っていこう。
著者プロフィール
Yumi Igarashi
山梨県在住。リゾートホテルの運営会社に10年在籍し、軽井沢、石垣島、福島を経て数年前からフリーランスで、ホテルの運営アドバイザー、ライターなど。SARUYAとの関係は、もはやきっかけは忘れましたが、なんやかんやとお仕事を手伝ったり遊びに来たりで、出入りしているいわゆる“関係人口“のひとりです。